【WEB】 英語は文法も発音もボロボロで大丈夫! 伝えたいという熱い想いがあれば!(Samurai Accent)

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以前 文法さえ正しければ日本語発音でも大丈夫? というエントリーで次のように書きました:

『英語なんて文法さえ正しければ日本語発音でも大丈夫!』とおっしゃっている方、多いかと思います。逆に『発音がよければ文法なんてボロボロでも大丈夫!』と信じてやまない方もいらっしゃるかと思います。さすがに『文法も発音もボロボロで大丈夫! 伝えたいという熱い想いがあれば!』と主張される方は少数でしょうか。

その少数の方(Chris Monsen さん)の動画(日本語)を発見しましたので紹介します(結構長いです;動画の中に登場する "Samurai Accent" というのは『日本語発音(日本語訛り)』と同義のようです):

ツッコミどころ満載でどこから攻めたら(?)いいのかわかりません。そもそもネタなのでツッコんだら負けなのでしょうか。しかし、YouTube のコメント欄の熱狂ぶりを見る限りネタではなさそうです。

ヘタクソな Native Accent を目指すんじゃなくて Samurai Accent で十分(7:35)

一般的な日本人は Native Accent を目指してはいません。そもそも習いませんから。発音重視の自分としては、できるだけネイティヴに近い発音をしようと一生懸命発音を習っている自分の生徒が『ヘタクソ』呼ばわりされそうで正直いい気がしません。「大人になってからネイティブの発音を1から身につけることはエベレストに登るくらい超ハードルが高い(4:40)」ともおっしゃっていますが、自分はこの意見には否定的です。

「私は昨日お尻を買いました」? というエントリーでも述べましたが、Samurai Accent だと他の意味にとられてしまう可能性がある、ということにまったく触れられていません。"I bought a bat yesterday." を『私は昨日お尻を買いました』ととられても OK なのでしょうか。さらに "bought" [ bɔ:t ] を間違えて『ボゥト』と発音してしまう中高生は多いのですが、下手すると 『私は昨日お尻を船で運びます』ととられてしまいます("boat" [ bout ] は動詞で『~を船で運ぶ』の意味)。"What did you buy yesterday?" という質問に対して「私は昨日お尻を船で運びます」と答えたらそもそもコミュニケーションが成立しないと思います(文脈からここまで飛躍することはないのは承知しております)。

Samurai Accent は日本人がどう発音するかをわかっている英語ネイティヴには通じるかもしれませんが、わかっていない英語ネイティヴには通じる可能性は低いです(通じるとしてもかなり負担をかけます)。

「それなら動画の中の潘基文国連事務総長の英語はどうなんだ」と思うかもしれません。これには簡単に反論できます。聞く方が国連事務総長の言っていることを理解しようと必死に聞いてくれるからです(文脈からもある程度何と言っているのか推測できます)。経験上、国連事務総長や大学教授でもない普通の日本人の言っていることをそこまで必死に聞いてくれる英語ネイティヴはあまりいません。そうであるならば、相手に理解してもらいにくい Samurai Accent より、理解してもらいやすい Native Accent をできるだけ目指した方がいいのではないでしょうか。その想い(努力)を『ヘタクソ』と切り捨てるのはいかがなものでしょうか。 

(英語がうまくなるポイントは)リスニングのスキルを上達させること(16:35)

自分が発音を重視している理由の一つに『自分で正確に発音できない音は正確に聞き取ることはできない(← 音声知覚の運動理論)』というものがあります。このことからすると、Samurai Accent だとそもそもリスニングのスキルを上達させることは難しくなります。リスニングができないのであれば話そうにも話せません(コミュニケーションが成立しません)。

ヨーロッパの人たちはしゃべれるのに中高6年間勉強している日本人がしゃべれないのは学校教育が原因だ(0:45)

そもそも言語的に英語に『近い』ヨーロッパの言語の人たちと日本人を比べるのは乱暴です。学校教育とは関係ありません。確かに『学校の試験で正しく書かなければ点数をもらえないと教え込まれているので、しゃべるときに文法的に正しくなければいけないと思ってしまい、緊張して(萎縮して)しゃべれない』のであれば学校教育が原因と言えるかもしれませんが、『文法ばかり教えていると批判される日本の学校(英語)教育』が原因ではありません。しゃべれない原因は恥や外聞をかなぐり捨てる勇気がないことです。

Chris さんが「『オーケー! ユーグッドルッキング! ワンエイティーダラー!(5:25)』でも大丈夫」と動画の中で言っていましたが、日本の観光地の土産物店の勇気ある(?)おばちゃんたちもこんな感じですよね(失礼!)。

確かに土産物店での売買という場面ならそれほど問題はないでしょう(友人とのつきあいという場面では『お尻を買いました』のおそれがあるので問題になると思います)が、ビジネスの場面では下に見られておしまいでしょう。また、入試などでよい評価が得られないことは言うまでもありません。

YouTube のコメント欄で『学校の先生も Chris さんみたいだったらいいのに!』というのが多かったですが、きちんとした英語を身につけてもらいたいと思っている教師が「オーケー! ユーグッドルッキング! ワンエイティーダラー!(のようなきちんとしていない英語)で大丈夫!」と言わなかったからといって学校教育が悪い、とまでは言えないでしょう。ただし『学校でリスニングをあまりやらない(18:20)』という批判はあたると思います(昔に比べればやっていると思いますが)。

日本人のナンバーワンの(英語の)悩みは発音で、伝わらないんじゃないかと不安(14:25)

これは『一般的な』日本人の悩みではありません。『かなり英語を勉強して文法もできるし語彙もある』日本人の悩みです。Chris さんは慶應義塾幼稚舎慶應義塾湘南藤沢中等部に通われていたり東工大で指導していたりすることがあるそうなので、そのときの経験からおっしゃっているものと推測します(以前、東大卒の堀江貴文さんが外国人記者クラブで会見したときに「質問は英語でしてもらって構いませんが、答えは日本語でさせてもらいます」と言っていたのは発音を気にされていたからではないでしょうか)。

『一般的な』日本人はこれ以前の問題です。YouTube のコメント欄にも多くありましたが、『そもそも文法がわからない』『そもそも単語が出てこない』のが『一般的な』日本人の悩みです。

『ある程度勉強している』日本人の中高生のしゃべれないという悩みは上述の『正しいことを言わなければいけないと考えることからの緊張』と前回のエントリーで触れた『外国語副作用』でほぼ説明できます。

 

冒頭の動画を知るきっかけになった記事はこちら:

自分の考えは以下の記事をご覧ください:

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